情熱と信頼の戦士


ワンレンはクーロンの路地を歩いていた。
片手でコインをもてあそびながら。
今のところ異常のない、クーロンの町。
風が吹き、空気は程よくよどんで、
有機的な町並みは、いつものように、
生きているのではないかと錯覚するように。

コインがちりりと反応。
近くにイレイズが出たらしい。
意識を集中、この近くの気配と路地の入り組み方を計算する。
答えが出たら走り出す。
走りながら、ワンレンはコインをかざし、
「散財!」
と、叫ぶ。
光に包まれ、走りながらワンレンは変身する。
サンザインプロト・ダブルに。

プロト・ダブルは路地を走り、
「ケー、ティー、聞こえるか。イレイズ反応あり」
と、連絡を飛ばす。
これはこの世界の通信手段を使っていると思って欲しい。
手軽な携帯電話のようなものがあると思っていただければいい。
プロト・ダブルの元に走る足音が近づいてきて、
立ち止まって姿を認めれば、カクザとチマだ。
「変身しておいたほうがいい、こちらの持ち物も消されないとも限らない」
プロト・ダブルはそんな指示をする。
「了解です」と、カクザ。
「わかってるって」と、チマ。
二人はコインをかざし、
「散財!」
と、宣言する。
プロト・ダブルと同じように光に包まれ、
カクザはプロト・ケーに、チマはプロト・ティーに変身をする。

イレイズの反応を、コインが示している。
彼らはうなずき、走り出す。
コインが散財の言葉を教えてくれたけれど、
彼らは、それ以上に持ち物を消すというイレイズが許せない。
物は人が作ったものであり、
それに対して、対価が払われ、
対価を元に、また物が作られる。
それはまた、この物を表現したいという情熱の塊でもある。
情熱はきっと相手にも伝わるし、
その情熱が世界を変える力にもなるはず。
信頼と情熱。
金の流れがまだ未熟なこのクーロンの町で、
物つくりに対する敬意と、
物を持つことの重みを知っている戦士。
散財して手に入れたその物の、情熱の熱さを知っている。

彼らはサンザイン・プロト。
物を無に返そうという、イレイズと戦う戦士。
彼らは町を走り、イレイズの気配を探す。
クーロンの入り組んだ路地を、庭のように彼らは走る。
颯爽と、それはまさしくヒーローだった。


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