時計の番人


ホンイエはクーロンの住人。
住人というにはなかなか目に付かないけれど、
ホンイエはある役目を持ってクーロンの町にいる。
それは、クーロンの時を守ること。
クーロンには時の流れがいくつかあり、
止まったままの時も、流れていく時も、過去も未来も、
それは編まれるように存在している。

ホンイエは時計を持ってる。
それは、クーロンの時をまとめた時計。
どんな理由があってそんなものをホンイエが持ったかは、覚えていない。
もしかしたら、この時計がクーロンの時を刻んでいるなんて、
それこそ妄想かもしれないし、
妄想でなければ、どうして時計の番人などをしているのだろう。
そう、時計の番人だ。

ホンイエは考える。あるいは妄想する。
このクーロンの奥深くに大きな時計があって、
それはこの手にしている時計と連動している。
大きな時計はこのクーロンの心臓の時計で、
それを止めてしまうことは、町を止めてしまうことにつながる。
番人として、ホンイエは時計を止めてはいけない。
止まるときは、きっと、
ホンイエも住民も納得したときのことだろう。

かちりかちり。針が動いているのを感じる。
番人として、いつも時計を感じていなければならない。
クーロンを止めてはならない。
使命感。
それ以上に、時計というものは心地いい。
生きているように錯覚させる刻み。
そう、鼓動のようだ。
クーロンはうまれて大して時間がたっていない町。
幼いのだ。

ホンイエはクーロンの町を歩く。
まだ若い町に、風が吹き、
誰かが走り抜けていく。
ああいう存在が、きっとクーロンの町の秒針だ。
住民はみんな、クーロンの町を動かしている動力源に違いない。
町は時計のように生きている。
ホンイエの妄想の中の、
クーロンの大時計なんて、あってもなくてもかまわない。
ただ、ホンイエは自分の心の使命感で動く。
この手の中の、時計を止めてはいけない。
ホンイエは妄想であろうと、時計の番人だから。

誰かが駆け抜ける。
汚れたクーロンの町を行く。
いつまでここの時を守れるだろうか。
思いながら、ホンイエはクーロンの町をゆっくり歩く。
かちりかちり。鼓動のようにクーロンの時が動いている。


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