扉屋という看板が出ている。
アクリルの看板だが、途中から割れていて、中の照明がそのままさらされている。
室内にありそうな、木彫りの美しい扉を、君は開けた。
店内に立て掛けられた扉の数々…
木だけに止まらず、紙、鉄、その他様々の扉が並んでいた。
店の奥で音がする。
君はそちらに行ってみた。
店の奥では、皺の彫りも深い老人が、畳一帖程の木の板を彫っていた。
これが扉になるのだろう。
「千の扉を作れと、神はワシに命じた…」
老人はひとり言のようにしゃべった。
「ワシは千の扉を作った。しかし、それでは足りなかった…扉は作った以上、開き、閉じなければならないのだ…ワシはここで扉を作りながら、ワシの作った扉を開き、閉じてくれる者を探している…」
老人が鑿で奥の方を指した。
「見るがいい…」
そこには扉が壁に立て掛けられていた…が、店頭にあったものとは少し趣が違う。
「扉は開かれた瞬間から、別の空間を繋ぎ出す…ここにあるのは繋がれた扉なのだよ…」
老人は君に向き直ると、
「どの扉でもいい、繋がれていない扉を開いてくれ…お主の行きたい場所に繋がる扉があるはずだ…」
それだけ言うと、また、鑿をふるいだした。
どれでもいいと言われたが…さて、目下どの扉を開いたものだろうか?
天使の彫られた扉
玉虫色の扉
重そうな鉄の扉